雨の物語
厚手のコートが邪魔になる季節は、天気が変わりやすい。
春の雨は、今まで寒さに堪えていた木々を揺り起こす目覚まし時計。
ひと雨ごとに春が来ると言われるが、花の蕾を怯えさせ、満開の桜を花吹雪に変える雨は、
人の心を苛立たせる。
雨に洗われた葉は、五月に鮮やかな緑で人々の目を楽しませてくれる。
雨は紫陽花の色を変える魔術師。そう感じたのは、少女のわたし。
自転車通学をする毎日にとって、梅雨はいやなものだ。
途中にある、たわむほど咲く紫陽花の庭を眺めるのが唯一の楽しみだった。
待ち焦がれていた夏が来ると、今度は灼熱の太陽を恨めしく思う。
そんなとき、空の彼方に入道雲を見かけると、やがて来る夕立ちに胸を躍らせてしまう。
海辺で水着のまま雨に打たれると、それだけで子どものようにはしゃぎたくなる。
夕立ちの後の虹は、何もないと思っていた空間を、夢の世界に変える。
秋になると、雨は風と一緒に暴れるときがある。
畑の作物をなぎ倒し、川を氾濫させ、我が物顔で過ごす人間に、自然の脅威を見せつける。
その後で、秋の恵みを置いて行く。
雨は神様の涙。こう言ったのは、幼い日の妹。
肩を濡らし、窓を叩く冷たい雨は、心をブルーにさせる。
でも冬の雨は、忘れていた悲しみに出会ったように、一人思い出に浸る時間をくれる。
子どもは、雪が待ち遠しい。
北国の人たちには果てしない試練だが、雪の降らない土地に住む者にとって、それは憧れですらある。
いい天気って、どんな天気?
運動会を楽しみにする子どもや、旅行の計画を立てている人は、晴れがいい。
傘屋さんや農家の人は、雨が嬉しい。
地球のみんなが待っているのは、雨と風と太陽のすべて。