白昼夢

 

 時は春。太陽も眠たい日曜日。

 口笛吹いて歩いていると、白い少女がぼくの目の前で思いきり転んだ。

少女は恥ずかしそうに辺りを見回し、ぼくの視線とバッタリ出会って、

わき目もふらずに駆けて行った。

 後に残ったのは小さなお財布。中身はたったの六十円。

それでも少女が困ると思い、ぼくは急いで追いかけた。

 再び少女を見つけたのは、木洩れ日きらめく公園の水飛沫飛び散る噴水の前。

少女は一人で佇んでいた。

「落とし物」

 ぼくの声に驚いて、振り向いた少女の長い髪が揺れた。

照れた笑顔が眩しいほどにステキだったことに、ぼくは初めて気がついた。

「お礼にお茶でも……」

 六十円しか持っていないはずの少女が言った。

(こんなかわいい子になら、奢ってもいいな)

 なんて思ったぼくは、少女と並んで歩きはじめた。

「歩くことが苦手なの」

 真面目な顔でそう言う少女を、ぼくは内心笑っていた。

(お姫様でもあるまいし、運動神経が鈍いだけ)

 少女は歩くことだけではなく、道案内も苦手のようだ。

迷路のようにあちこち曲がり、ぼくは自分が今何処にいるのかさえも分からなくなった。

家の近所のはずなのに。

「こっちよ」

 少女が指差すその先を見た。蔦の絡まる白い洋館。

「正真正銘のお嬢様」

 ぼくの言葉が聞こえなかったのか、少女は

「どうぞ、あがって」

 と促した。

広い家にはたくさんの使用人がいるかと思ったが、出迎える人は誰もなかった。

「お茶を淹れるわ」

 そういう少女に

「じゃあ、コーヒーでも……」

 ぼくは応えた。一瞬、少女の笑顔が歪んだ。

 

続きは短篇集でどうぞ。

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