ひろったもの

　ボクは夜道を歩いていた。

月のない夜で、そんな日は星が妙に目立つのさ。

星座なんかわからないまま、ひとつふたつと数えていった。

宇宙には、いったいいくつの星があるんだ。

　角を曲がったら、道の少し先に、白い体に黒いぶちのある猫がいた。

ぶち猫は何か鈍く光ったものを遠巻きに威嚇していた。

頭を低くしてしっぽを立て、飛びかかりたいのに怖がっている、そんな様子がおかしかった。

　猫は不意に現われたボクに気がついて、はっと固まった。

まずいところを見られたなという顔をして、次の瞬間走って行った。

　猫が去った後には、銀色に光った細いバナナのようなものが落ちていた。

恐る恐る拾ってみると、それは思ったよりも冷たかった。

銀色のバナナは、ボクの手の中で少し光を強めた。

「ボクのうちに来るかい？」

　バナナは光った。

それでボクは、銀のバナナを家に連れて帰った。


　光るバナナを手に入れてから、ボクの毎日は一変した。

仕事は順調だし、家に帰るのも楽しみだった。

ドアを開けると、あったかい夕飯ができている。

それはもちろん、あのバナナがつくってくれるのさ。

眠れない夜にはふたりでいつまでも話をしたり、映画を見たり、本を読んだり。

バナナとの同居生活はとても幸せだった。

　でも、ボクは気づいていた。

時々、バナナが空を見上げてぼんやりしていること。

この頃の空には、ちっとも月が出ないこと。

「そろそろ帰るかい？」

　バナナは光った。

もうあの夜みたいに消え入りそうな細さじゃない。

少しふっくらしたおいしそうなバナナは、ボクと別れるのもつらそうだった。

ばかだな。

どっちも選ぶことなんてできないのに。

「泣くなよ」

　ボクはバナナと自分に言い聞かせて、暗い夜空にぽーんと放り投げた。

　バナナムーン、もう落ちてくるんじゃないよ。

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