柿の木
大通りに出るまでの道の角に、クリーニング屋さんがあるでしょう。
そう、駅までの道の途中にある、あのクリーニング屋さん。
そこの隣の家の庭に、大きな柿の木があるのを知っている？
毎年秋になると、たくさんの柿の実がなって、でも柿は決して取られずに冬になるの。
わたし、どうしてかなあっていつも思っていた。
だって、すごくおいしそうな柿だし、もし渋柿だったとしても、皮を剥いて干し柿にしたらいいのに。
この間クリーニング屋さんに行った帰りに、たまたまその家の人が庭にいたの。
絵に描いたようなおばあさんだった。
目が合ったから、わたし、こんにちはって挨拶した。
初めて言葉を交わしたから、ちょっとどきどきしたわ。
どきどきを紛らわすために思わず、
「おいしそうな柿ですねえ」
って、わたし、なんだか食いしん坊みたい。
「ああ。これねえ、渋柿なんですよ」
おばあさんの返事に、やっぱりって思った。
「干し柿にしないんですか？」
食いしん坊が言った。
「年寄りには、そんなのも面倒でね」
代わりにやってあげましょうか、という言葉をぐっと飲み込んだ。
残念そうなわたしの顔を、おばあさんは笑って見ていたわ。
「だんだん寒くなると、花もなくなって淋しくなるでしょう。
こんな柿でも、通る人にいいなあ、おいしそうだなあって思ってもらえればいいんですよ。
それに柿の実は、なんだか夕日みたいでいいでしょう？」
たくさんの夕日を育てているおばあさんは、柿の木の隣にある柚子の実を三個くれた。
柚子の木にもたくさんの実がなっていた。
いいにおい。
お風呂に入れようかな。
さんまに添えようかな。
わたしもいつか実のなる木を育ててみようっと。