風に吹かれて

 

「今日はよいお天気ですが、午後から風が強くなるでしょう」

 お母さんは朝の天気予報を聞いて、洗濯物が飛んでしまうかしらと心配しました。

今は風がなく、窓ガラス越しの陽射しはすっかり春です。

「本当にいいお天気! 大好きな季節だわ」

 お母さんが伸びをしている横で、息子たちはまだ歯磨きをしていました。

「早くしないと遅れるわよ」

 小学生のさとるとしげるは、出かける間際までテレビのアニメ番組に夢中なのです。

お母さんの言葉を聞いているのかいないのか、二人は分かったと生返事をしました。

「ほら、早く!」

 お母さんは、さっきよりも大きな声を出しました。

 一日に何度「早く」と言わなくてはいけないのでしょう。

たまには自分から何でもやって欲しいわと思いながら、お母さんは二人にランドセルを渡しました。

「いってきます」

 息子たちを送り出すと、お母さんはほっとしました。しかし、月曜日の朝は大忙しです。

「まずは洗濯だわ」

 お母さんは声に出して気合を入れました。

洗濯は昔に比べれば、ずいぶん楽になりました。ボタン一つで全自動で洗ってくれるのですから。

 お母さんは洗濯機が回っている間に蒲団を干し、掃除を始めました。

 子供がいる家は、何故こんなに散らかるのでしょう。

狭いからと引っ越した家も、すぐ物に占領されてしまいます。

これでは何のために広い部屋を選んだのか分かりません。

結婚した頃は、一つずつ物が増えていくことが嬉しかったのに、

今ではどうやって片付けようかと悩むばかりです。

(だから新築の一戸建てなんて、我が家には夢なのよ)

 三LDKのアパート住まいでも、こんなに家事が多いのです。

庭の草むしりをしたり、白い壁を汚さないように気をつけたりしながら生活するのは、

息子たちがもっと大きくなってからでないとできません。

 お母さんは日頃の不満を、アルミサッシュをゴシゴシ掃除することで解消していました。

嫌なことがある時ほど、ガスレンジや窓拭きなど普段しない掃除をして、

ピカピカになるのを見て心を落ち着かせるようになったのはいつからだったでしょうか。

 一息吐いた時、洗濯機の終了ブザーが鳴りました。

お母さんは、山のような洗濯物を籠に入れ、ベランダに行きました。

シーツ、タオル、パジャマ、シャツを干し、最後にエプロンをかけようとしました。

その時急に強い風が吹いて、お母さんの目の中に埃が入りました。

「痛い!」

 

続きは短篇集でどうぞ。

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