魔法の木の実

　あるところに、小さな国がありました。

その国には王様とお妃様とたくさんの家来たち、そしてさらに多くの人々が住んでいました。

　ある時、お妃様が男の子をお産みになりました。

王子様の髪は夜空のように黒く、頬は桃のようにピンクでやわらかでした。

目は深い湖のように澄んでいて、長い睫毛に縁取られていました。

　王様とお妃様は、それはそれはお喜びになって、王子様を大切にお育てになりました。

王子様はとてもかわいらしかったので、家来の者たちみんなからも愛されて育ちました。

　王子様が七つになった時、王様とお妃様が外国へお出かけになりました。

しかし幼い王子様は、お留守番をしなければなりません。

その間も王子様は家来たちに囲まれ、何不自由なく暮らしていました。

　王様がお出かけになった日の午後、お城の門を叩く音がしました。

門番が開けて見ると、そこには小さな女の子が立っていました。

女の子は裸足で、汚い服を着ていました。髪はバサバサで、顔も薄汚れていました。

門番は一目見るなり、門を閉めようとしました。すると女の子は

「お願いです。お腹が空いてたまりません。どうか、パンを恵んでください」

　と、門に手をかけました。

「離せ。ここは、お前みたいな子が来るところではない！」

　門番は乱暴に門を閉めました。女の子は、仕方なくお城を後にしました。

大きな音がしたので、王子様はびっくりして

「今の音は、何？」

　と、そばにいたお世話係に訊きました。

「門番が門を閉めた音でございます。もっと静かに閉めるように言ってまいりましょう」

　王子様は小さいので見えなかったのですが、

お世話係は門番が女の子を追い払う姿に気づいていました。

　女の子は王子様と同じ七つでした。

家には兄さんや姉さんが五人もいて、弟と妹も三人いました。

父さんと三人の兄さんは、毎日遠くまで働きに行きます。

母さんと二人の姉さんも、糸を紡いだり、畑の作物の世話をしたり、

家の仕事をしたりと忙しくしていました。

女の子は弟と妹の面倒をみていますが、わずかな食事は弟たちに取られてしまうので、

いつもお腹が空いていました。

「ああ。王子様はいつも食べ物がたくさんあって、綺麗な服を着ていられるのに、

わたしはどうして貧しい家に生まれてきたのだろう」

　女の子は、家へ帰る途中の道で悲しくなって泣きました。そこへ、一羽の鳥が舞い降りました。

「どうして泣いているの？」

続きは短篇集でどうぞ。

back