きりんかします

この作品は小学館「きらら」携帯メール小説大賞第25回月間賞で
最終選考(30篇)に残りました。


 うっかりしていた。

いつもなら居眠りしていても必ず一つ前の駅で目が覚めるのに、乗り過ごした。

その夜は寝ていたわけでも疲れていたわけでもなく、ただうっかりしていただけとしか言いようがない。

気づいたら降りるはずの次の駅で、麻美は閉まりかけの扉にぶつかりながら飛び降りた。

(ついてない……)

 扉に挟まれて痛む左腕をさすりながら、麻美はホームの反対側に並んだ。

上りの電車はすぐに着いた。

疲れた顔の人々が降り、その半分くらいの人が乗り込んだ。

 車内には空いている席も多かったが、麻美は入り口のすぐ脇の手すりにもたれて外を見た。

線路は続いているのに、これまで一度も見たことのない風景が過ぎる。

 ぼんやりしていた麻美の目が、思いがけないものを捉えた。


 きりんかします


(え?)

 それは、工場のような建物の看板だった。

(きりんかします?)

 見間違いだろうと思って、後ろに流れる景色に目を凝らした。

既にほかの建物の陰になってしまい、看板は見えない。

でも、確かに書いてあった。


 きりんかします


 きりん? あの首の長い、動物園で見る網目模様の動物?

 日本でペットとして飼える最大の動物がきりんだと、何かで読んだ。

でも、きりんを家の中で飼うなどできるわけがなく、広い庭があったとしても植木はすぐに食べ尽くされてしまうだろうし、

隣家から苦情がくるだろう。

続きは短篇集でどうぞ。

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