キヨミさんは、三歳離れた弟と両親の四人家族です。
キヨミさんが小学校へ上がるのをきっかけに、一家は団地から今の家に引っ越しました。
東京から電車で四十分、駅から徒歩十分ほどの三LDKの新築一戸建てです。
越してきたばかりの頃、キヨミさんは幼いながらも、とても誇らしく感じていました。
こんなに新しくてきれいな家に住んでいる子どもが、お友達にいたでしょうか。
団地は狭くてどの家も同じつくりで、お世辞にもすばらしいとは言えませんでした。
キヨミさんは、幼稚園へ行く途中でいつも
(あんな家がいいなあ。この家はちょっとぼろだわ)
と、密かに観察していました。
新しい家は、憧れていた洋館には及びませんが、それでも十分満足できるものでした。
とりわけ階段は姉弟のお気に入りでした。
団地と違い、家の中にあるのです。
ふたりは特に用事もないのに一階と二階を行き来したり、「じゃんけんぽんのグリコのおまけ」で遊んだりしました。
引っ越しと同時に、キヨミさんは二階の四畳半の和室をもらいました。
それまでは弟とふたりで一つの子ども部屋だったのです。
自分だけの部屋を持った時のキヨミさんの嬉しさと言ったら、
六年間の誕生日やクリスマスのプレゼントなど、比べ物にならないくらいでした。
それは弟も同じです。
キヨミさんは、雨の日にはお友達を家に呼びました。
そして、キヨミさんの部屋で一緒に塗り絵をしたり、本を読んだり、おままごとをしたりしました。
おやつには、お母さんがクッキーとジュースの乗ったお盆を部屋まで持って来てくれました。
なんて幸せなのでしょう。
その時、お友達が羨ましそうにしているのが、キヨミさんにもよくわかりました。
キヨミさんの部屋には、もう怪獣のおもちゃやプラモデルはありません。
かわいいぬいぐるみや本が棚に並んでいます。
色で言えば、キヨミさんの部屋は赤やピンク、黄色が多くて、隣の弟の部屋は青や緑や茶色などでできていました。