理由
「ねえ、隆はあたしのどこが好き?」
レストランで食後のデザートを待っている間、不意に春香が訊いてきた。
マスカラでくるりとカールさせた睫毛、ぽってりしたピンクの唇。
今日は気合いを入れて化粧してきたに違いない。
春香のくるくる動く目や、よく話す口、丸い小さな鼻は、本当はスッピンでもじゅうぶんかわいい。
彼女自身は鼻の高さが足りないと気にしているとしても。
第一、パーツのひとつひとつがよくても、全体のバランスってものがある。
春香は絶世の美女ではないにしても、愛らしい女性だ。
しかし、こんな時、化粧を誉めるべきかスッピンを称えるほうが喜ぶのか、僕にはわからない。
「うーん、顔」
春香は口をとがらせた。
納得できない返事だったらしい。
「なんで? かわいいってことだよ」
それでも春香はむくれている。
機嫌を直すためという口実で、僕のデザートも彼女が食べた。
それはいつものことだけど。
春香が二度めに訊いたのは、ふたりだけでいる時だった。
「あたしのどこが好きなの?」
きれいな鎖骨や贅肉のない背中、白くてなめらかな肌は女性らしい。
胸が小さいと嘆いていても、お尻が大きいと悩んでいても、春香の体は魅力的だった。
「……からだ」
春香は枕を投げつけた。
また、ばばを引いてしまった。
「あ、へんな意味じゃないよ。ちゃんと体を鍛えているから無駄な脂肪がないし、色が白くてきれいだし……」
春香は頭まで蒲団をかぶって、背中を向けてしまった。
「えーと……じゃあ、性格。やさしいところとか、あと、料理がじょうずなところ」
「じゃあって何? どうしてそんな簡単に言えるの?」
今日はどこに地雷があるかわからない。
黙っていたほうがいいかもしれない。
「隆は汗っかきだし、禿げかかっているし、お腹は出ているし、タバコは吸うし、足は臭いし……」
続きは短篇集でどうぞ。