幸せの色
昔々のお話です。
あるところに、赤が大好きな王様がいました。
王様は、身につけるものはもちろん、お城の壁や調度品にもすべて赤を使っていました。
「今日の食事は、キャロットスープにトマトのサラダ。
ステーキの焼き方はレアで。デザートは苺がいい」
王様は毎日赤い服を着て、赤い部屋で赤い食事を召し上がりました。
王様が赤を好きなのは、人々の注目を集めるからでした。
お城の何処にいても目を引き、みんながいつでもすぐに自分の言うことを聞くのは、
気持ちのいいものでした。
王様の仕事は、家来にいろいろな命令をすることなのです。
だから王様は、自分以外の人間が赤を身につけることを許しませんでした。
ある時、お城の庭園に白い花が咲きました。
「こんな所に白い花を植えたのは誰だ！」
王様が怒鳴ると、家来が慌てて飛んできました。
「申し訳ございません」
家来たちは、王様の目の届かない所で、様々な色の花を育てて楽しんでいたのです。
この白い花の種は、庭の隅から飛んで来たのでしょう。
「私の目に入る場所は、みんな赤くするのだ！」
王様は怒って命令しました。家来は白い花を抜きました。
それから、すぐに庭中の花壇を掘り起こし、赤い花に植え替えました。
ブルドーザーに潰される花を見た時、王様の胸は少し痛みました。
王様は、本当は白い可憐な花をとても愛しいと思ったのです。
でも、赤しか認めていなかったのに、白い花を綺麗だと言ったらどうなるでしょう。
これまでの自分に嘘を吐くことになります。
王様は、その後もますます赤いものばかり身につけていたため、
次第に怒りっぽくなっていきました。
ある日、長い間お子様に恵まれなかったお妃様が赤ちゃんを産みました。
「かわいい男の赤ちゃんですよ」
王様は悔しくてたまりません。
男の子が産まれたということは、いずれ王の地位を譲らなければならないからです。
王様は、王子を認めないことに決めました。
お妃様は悲しみ、何とか王様に王子を会わせようとしました。
そこで、この国では誰も着ていない白い服を着せ、
王子の一番機嫌のいい時に、王様の部屋に連れて行きました。
王様は、王子の輝くばかりの純白の服に目を奪われました。
庭園に咲いていた、あの可憐な花のようです。
王様は王子の顔を見ました。あどけない笑みを満面にたたえています。
王様は、幼子のあまりのかわいさに思わず微笑んでしまいました。
そして、今まで自分がいかに頑固だったか、はっきりと思い知らされました。
続きは短篇集でどうぞ。