ソラコさんのはなし

　ソラコさんはビールが飲めません。

ビールだけでなく、アルコールはすべて受け付けませんし、炭酸飲料もだめです。

　ソラコさんが飲めないのは、ひいおじいさんの代からの遺伝で、両親にも幼い頃から、

「ソラコはお酒を飲んだら大変なことになるから、決して飲んではいけない」

と言われてきました。

でも、これまでに何度も、

「お酒が飲めないなんて、人生の楽しみの半分をなくしている」

と笑われました。

中には怒り出す人までいて、それはソラコさんには余計なお世話でしたが、時々ほんのちょっぴり羨ましくなることがありました。

暑い夏の夜、ジョッキにいっぱいのビールをクイクイとおいしそうに飲む人たちを見ていると、いかにも仕事から解放された感じがします。

グラスにほんの一杯でもいいから飲めると、楽しいだろうなと思うのです。

　それにお酒を飲む人たちは、自分ではあんまり気づいていませんが、酔った様子というのは随分変なものなのですよ。

すごくけちで有名な課長が、宴会の席では高いお酒を何杯も飲んだ挙句に戻してしまったり、

美人で近寄りがたいＳさんが、酔っ払うと靴を脱いで歩いて化粧を落とさずに眠って翌朝すごい隈をつくっていたり。

　ソラコさんは自分のことを嫌いではありませんが、羽目をはずすのがへたで周りの人たちとの間に微妙な壁があるのに気づいています。

それはきっと下戸のためで、お酒の力を借りて、ほんのいっときでもいつもと違う自分になれたら、

みんなはもっと気安く話しかけてくれるのだろうと、この体質を恨めしく思うのです。

　ある時、ソラコさんは同僚に誘われて、仕事帰りに居酒屋に行きました。

夜景のきれいなバーだと、お酒が飲めないとつまらないのですが、居酒屋には食べ物もたくさんあるので、ソラコさんでも楽しめます。

ポテトフライや枝豆、空揚げ、サラダ、ピッツァなどをつまみながらお酒を飲んでいるみんなの一番隅で、

ソラコさんは焼きおにぎりや冷奴、ゴーヤーチャンプルーなども食べながらウーロン茶を飲んでいました。

続きは短篇集でどうぞ。