トマトのねがい

イラストはこちらです。

　夏。お日さまが顔を出すと、トマトたちも目を覚まします。

「おはよう」

「おはよう。いいお天気だね」

　トマトたちは挨拶を交わして、朝露で顔を洗います。

固い緑の頬に雫がキラキラ光る様子は、まるで宝石のようでした。

「見て！　わたしのほっぺたのあたり。こんなに赤くなったのよ」

　一番上になっているトマトが、胸を張って言いました。

クリスマスツリーの星飾りのように、お日さまのお恵みがたくさん受けられるからでしょう。

「ぼくだって、ひと晩でこんなに大きくなったよ」

　隣の木のトマトも、負けずに言います。

　トマトたちは、おじいさんが朝の水撒きに来る前に、騒がしく自慢話をしていました。

　畑の端っこにある、少し日当たりの悪い木にも、小さなトマトがなっていました。

このトマトはほかの木より背が低く、みんなの話についていかれません。

しかし、いつもお日さまに向かって、精一杯背伸びをしていました。

「お日さま、おはようございます。

わたしにも朝の光を届けてくださって、ありがとうございます」

　小さなトマトは、いつも感謝の気持ちを忘れません。

　暑い日が続きました。トマトはどんどん赤くなりました。

　ある朝、星飾りのトマトが真っ赤に色づきました。

「わたし、きれいに赤くなったわ」

　トマトは嬉しくてたまりません。

まだ寝惚けているみんなに「見て、見て！」と声をかけました。

　ところが、その声を聞いたのはトマトだけではありませんでした。

食いしん坊のカラスがやって来て、赤いトマトをつつきました。

　みんなは、かわいそうで見ていられません。

知らないふりをして、下を向いてしまいました。

　カラスは、真っ赤なトマトを食べてしまうと、

満足したのか「カア！」と大きく鳴いて飛び立って行きました。

　残ったトマトたちは、今の恐ろしいできごとを話し合いました。

「カラスに食べられるのは、いやだな」

「そうだよ。おじいさんに大事にとってもらって、きちんとお店に行きたいな」

「わたしはサラダになりたいわ。

レタスやキュウリと一緒にガラスの器に入れられて、ドレッシングをかけてもらうの」

「ぼくは、スパゲッティのソースになりたいな」

「ジュースになるのも素敵だわ」

　トマトたちは、思い思いの夢を語りました。

　小さなトマトは、いつまでもお日さまと一緒にいたいなと思っていました。

　何日かして、トマトはみんな赤くなりました。

おじいさんが、一所懸命もいでいます。

トマトは、箱にお行儀よく並べられ、トラックに乗って市場へ行きました。

　小さなトマトは、畑に残りました。まだ青かったからです。

「みんな、どこに行ったのかしら。おいしいって食べてもらえるといいな」

　小さなトマトは「みんなが幸せに過ごせますように」とお日さまにお祈りしました。

　夏休みになりました。おじいさんの家に、孫が遊びに来ました。小さな男の子です。

　どろんこ遊びと日焼けで真っ黒な顔をした男の子は、畑の隅にあったトマトを見つけました。

「おじいちゃん、トマト食べていい？」

　小さなトマトは、体をかたくしました。

「ああ、いいよ」

　おじいさんは、にっこりと微笑みました。男の子が手を伸ばしました。

小さなトマトは怖くなり、目を閉じました。しかし、触れた手は小さくあたたかでした。

「すごくおいしいね」

　男の子は喜んでいます。

　ちょっといびつで小さくてお店に出せなかったトマトは、

お日さまに見守られて、一番幸せな食べ方をされました。

　男の子は丸いほっぺたを揺らし、虫取りに走って行きました。

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