郵便局の桜井さん
この作品は小学館「きらら」携帯メール小説大賞第３０回月間賞で
最終選考（30篇）に残りました。
郵便局の三番窓口の男性は、ミスチルの桜井さんに似ているらしい。
三番窓口は、貯金、為替・振替、年金・恩給、簡易保険を取り扱う。
郵便は一番窓口。
それ以外は三番から五番窓口で、カウンターにある機械から番号札を取って順番を待つ。
通販や公共料金の払い込みはすぐに済むが、定期預金の解約や年金の受け取りは少し長くかかる。
時々、おしゃべりのほうが大事だと勘違いしているような年金受給者がいて、混んでいる時には勘弁してほしい。
わたしは会社の出納兼雑用担当なので、一日に二回郵便局に顔を出す。
郵便を出しに行ったり、振り込みに行ったり。
だから、郵便局の人はみんな覚えてしまった。
それは、あちらも同じだ。
仕事中なので特別な話はしないが、「暑いですね」とか「今日は振り込み件数が多いので、後で取りに来ます」とか、
それくらいの言葉は時々交わす。
郵便局の三番窓口の男性がミスチルの桜井さんに似ていると言い出したのは、近藤さんだった。
「どうして隠してたんですかあ」
休暇を取った翌日、わたしに詰め寄ってきた近藤さんは、代わりに郵便局に行って「桜井さん」に会ったのだ。
「別に隠していたわけじゃないわよ。似ていると思ったこともないし、そもそも桜井さんってよく知らないし」
「えー、もったいない。あんな爽やかな人、今時貴重ですよ。芸能人にも桜井さんのファンって多いらしいですし」
確かに爽やかな感じはする。
いや、近藤さんの言う桜井さんではなく、郵便局の彼が。
担当は決まっているのだろうが、郵便を出す人が長い列をつくっていて自分の手が空いている時、
さっと席を立って「次の方どうぞ」と言うところなど、電話にもなかなか出ない局長とは大違いだ。
「ふうん、桜井さんねえ」
クラシックファンのわたしは、日本の歌手には興味がない。正直にそう伝えると、近藤さんは一瞬がっかりした後、
「今夜の音楽番組にミスチルが出ますから、そこだけでもいいから見てください」
と力を込めた。
続きは短篇集でどうぞ。