あくまくんの友だち

公園のとなりに、ぞうき林がありました。

そこは、いつもうすぐらくて、じめじめしていました。

林の中に、ガラスびんが一つありました。

ずっと土にうもれていたので、とうめいなびんは黒ずんで、中が見えません。

このびんの中には、あくまが入っていました。

だれかがあけてくれるまで、あくまは外に出られません。

このあくまも、もうどのくらいか、わすれてしまうくらい長い間、びんの中ですごしていました。

ある時、ものすごい台風がやってきました。

風がふきあれ、雨は家のたたみの上までやってきました。

台風は、ぞうき林にもふきあれました。

雨にながされたガラスびんは、公園のすみにたどりつきました。

台風がすぎて何日かたったころ、公園にあそびにきた男の子が、このびんを見つけました。

「あ！　なんだ、これ」

たくやくんが、ガラスびんをひろいあげました。

ふたをあけようとしましたが、ぴったりくっついていて、とれません。

「えい！」

と、なげると、びんはがちゃんとわれて、中から白いけむりが出てきました。

たくやくんは、せきこんで、目をつぶりました。

しばらくしてあけると、目の前に男の子が立っていました。

男の子は、シャツもズボンも黒くて、頭にとんがりぼうしをかぶっていました。

角をかくすためなのですが、そんなぼうしは、おたんじょう会の時にしかかぶりません。

「きみ、だれ？」

たくやくんのしつもんに、あくまくんは、すぐにへんじができませんでした。

何年も、声を出したことがありませんでしたから。

「……アクマ……」

やっとのことで、ものすごく小さな声で答えました。すると、

「え？　たくまくん？　なあんだ。ぼくとにてるね。ぼくは、たくやっていうんだよ」

たくやくんは、あくまくんの名前を、まちがえてしまいました。

あくまくんは、心の中で考えました。

（なんだ、こいつ。おっちょこちょいだなあ。

でも、まあ「たくま」としておいたほうが、つごうがいいか）

あくまくんのしごとは、人間をふこうにすることです。

それには、人間のふりをしてなかまになったほうが、しごとがしやすいと思ったのです。

「たくまくん、いっしょにあそぼうよ」

たくやくんは、あくまくんを公園のすなばにつれて行きました。

そこには、たくやくんの友だちがたくさんいました。

「みんな、新しい友だちだよ。たくまくんっていうんだ」

「いっしょにあそぼう」

「なかよくしようね」

子どもたちは、へんなかっこうのあくまくんをかんげいしました。

でも、あくまくんは、よろしくも言わずに、ふふっとわらいました。

（みんなでなかよく、だって。そいつはいいや。できるものなら、やってみな）

あくまくんは、びんにとじこめられる前に、たくさんの人間を見てきました。

そして、むかしから人間は、口では「なかよくしよう」と言いながら、

心では「あんなやつ、きらいだ」と思うものだと知っていました。

あくまくんが思ったとおり、しばらくすると、二人の男の子が、すなばのすみでけんかをはじめました。

「ぼくが見つけたんだよ」

「ぼくのほうが先に、つかおうと思ったんだよ」

一本のぼうを、二人でとりあっています。

（ほら。やっぱり、なかよくあそぶなんて、できないじゃないか）

あくまくんが、そんなようすを見ていると、

「あ！」

ぼうが、二つにおれてしまいました。

（よくばるから、こんなことになるんだ。いいきみさ）

あくまくんは、うれしくてたまりません。

でも、けんかをしていた男の子たちは、しょんぼりしたあとで、

「二人で分けなさい、ってことなんだね」

と、顔を見合わせてわらいました。あくまくんは、

（おかしいな。すぐになかよくなるなんて）

と思いました。

それからも、あくまくんが、ぶらんこのわりこみをしようとすると、

「じゅんばんをまもるんだよ」

と言ったり、あくまくんが、うえこみの花をつむと、

「すぐかれちゃうから、つんじゃだめ」

と言ったりします。

こうなると、あくまくんはちっともおもしろくありません。

（なんだい、なんだい。

人間はちょっと見ない間に、ずいぶんなかよしで、おぎょうぎよくなっちゃったじゃないか）

それでも、あくまくんは、みんなといっしょにあそぶのが、だんだん楽しくなってきました。

ところが、夕方になって、リンロンリンロンとかねがなると、子どもたちが帰りはじめました。

「じゃあね」

「またあした」

「バイバーイ」

楽しい時間は、いつまでもつづくものではありません。

あくまくんは、これで人間をふこうにできたとよろこびました。

でも……、みんながいなくなった公園に一人でいるのは、さびしくてたまりません。

「あしたも、いっしょにあそびたいなあ」

そうつぶやいたあくまくんは、さいごのねがいをかけようと思いました。

それは、むかしからどうしようもないと言われてきた人間に、自分がなることでした。

これこそ、一番大きなふこうです。

「※§♯♭♪☆∞」

あくまくんは、じゅもんをかけました。

すると、頭の角がとれて、人間の子どもになりました。

でも、ちっともふこうではありません。

だって、あしたもみんなとあそべるし、たくまくんという、すてきな名前もあるんですもの。

こうして、さいごのあくまがいなくなりました。

だから、あなたが古いびんを見つけたとしても、その中にあくまは入っていませんよ。

たぶん。