あしたの天気

「あーした天気になーれ！」

学校からのかえりみち、かずくんがくつをけり上げました。

いっしょにあるいていたちいちゃんは、

ランドセルをカタカタならして、かずくんのくつまではしります。

右足だけで、ちょこんとすましているくつを見たちいちゃんは、

「あしたも、はれだよー」

と、かずくんをふりかえりました。

かずくんは、かた足のけんけんとびで、くつをとりにいきました。

ときどき、くつ下のままあるいて、はなの下にあせをかいて。

六月なのに、ずっとはれの日がつづいています。

まい日とてもあついので、そろそろ雨がほしいところです。

でも、子どもたちは、そとであそんだり、プールに入れたりする、はれがうれしいのです。

「あたしもやってみよう。あーした天気になーれ！」

ちいちゃんが、くつをけり上げました。

「あ！」

二人は、かおを見あわせました。

ちいちゃんのくつは、白いいえのたかいへいを、こえていってしまったのです。

「ちいちゃん、なにやってんだよ」

「どうしよう」

「すみませーんって、とらせてもらおうよ」

こわい人だったらいやだな、とおもいましたが、はだしでかえるわけにはいきません。

いえまでは、まだずいぶんとおいのです。

けんけんとびのちいちゃんにあわせて、かずくんも、ゆっくりあるきました。

もんのところまできて、二人はごくりとつばをのみました。

「すみませーん……」

ドキドキしていたので、二人あわせても、一人ぶんより小さなこえでした。

きこえなかったのでしょう。いえの中は、しーんとしています。

「すみませーん」

こんどは、さっきよりも大きなこえでよびました。まだ、だれも出てきません。

三かいめ、とおもったとき、げんかんのドアがひらきました。

かずくんとちいちゃんは、ドキッとして、手をつなぎました。

でも、出てきたのは、やさしそうなおばあさんでした。

「あらあら、かわいいおきゃくさんだこと。なにかごよう？」

ほっとしたちいちゃんは、

「あのー……くつ、とらせてください」

とおねがいしました。

「くつ？」

おばあさんは、くびをかしげました。

「あーした天気になーれって、けっとばしたら、おにわに入っちゃったんです」

おばあさんは、ちいちゃんの足もとを見ました。

ちいちゃんも、じぶんの足を見ました。右足がくつ下のまま、じめんについています。

あわてて、かた足立ちをしました。

「あー、よごれちゃった。ママにしかられちゃうな」

「そのくらい、だいじょうぶだよ。ぼくだって、さっき、くつ下のままあるいたもん」

「でも……」

二人のやりとりをきいていたおばあさんは、くすくすわらって、もんをあけてくれました。

「中に入って、さがしてごらんなさい。それいじょう、よごれないうちにね」

「はい。おじゃましまーす」

かずくんが、さがしにいってくれました。ちいちゃんは、もんのところでまちました。

そっとにわをのぞくと、そこにはたくさんの花がありました。でも、みんなつぼみです。

「わー、すごい。ぜんぶさいたら、きれいだろうね」

ちいちゃんが、うっとりしています。

「この花は、雨がふるとさくのよ」

おばあさんのことばに、ちいちゃんはわらいました。

「水をやればいいのに。そうしたら、さくでしょう？」

「いいえ。この花は、雨がふらないとさかないのよ」

おばあさんは、おなじことをいいます。ちいちゃんは、へんなのとおもいました。

そのとき、かずくんが、ちいちゃんのくつを見つけてもどってきました。

「ちいちゃんの天気よほうだと、あしたは雨だってさ。

ぼくのよほうと、どっちがあたるかな」

ちいちゃんは、雨がいいなとおもいました。

じぶんのよほうだからではなく、この花たちがさくのを見たいからです。

「どうもありがとうございました」

二人は、おばあさんにおれいをいいました。　おばあさんは、にっこりしました。

「あした、雨がふったら、またいらっしゃい。いいものを見せてあげる」

つぎの日も、よいお天気でした。

かずくんのよほうが、あたったのです。ちいちゃんは、がっかりしました。

でも、かえりのかいをしているころ、きゅうに、こまかい雨がふりはじめました。

かずくんとちいちゃんは、かさをもってきていません。

すこしだからと、二人ははしってかえりました。

雨は、だんだんつよくなってきました。

おばあさんのいえのまえまできて、ちいちゃんは、きのうのことをおもいだしました。

「おばあさん、こんにちは」

ちいちゃんが大きなこえでよぶと、きょうは、おばあさんがすぐに出てきてくれました。

「いらっしゃい。まってたのよ」

二人はにわに入ると、こえも出ないくらいおどろきました。

きのうはつぼみだった花が、みんなさいていたのです。

おばあさんのことばは、ほんとうでした。

いろとりどりの小さな花は、下にむしたちをとまらせていて、なんだか、かさのように見えました。

おばあさんは、にわのおくから大きめの花をつんできて、二人にわたしてくれました。

「これは、かさの花なのよ」

かずくんとちいちゃんは、あおいかさをさしながら、雨もいいなとおもいました。