透明な犬

透明な犬がいます。

誰にも見えませんが、確かにいます。

公園で投げられたフリスビー。

透明な犬は、それをあっという間にくわえて走ります。

人には、フリスビーがうまく風に乗ったように見えます。

そんな時、透明な犬は本当の風になっています。

本物の犬にも、透明な犬は見えません。

ただ、風にしては変だと思いながら、フリスビーを追いかけます。

雨の日。

犬の散歩に来る人は、逃げるように通り過ぎて行きます。

透明な犬は、雨に濡れない場所をちゃんと知っていて、そこで丸くなります。

寝ているのか起きているのか、自分でも分からないくらいになると、

透明な犬は雨になります。

ある時、焦げ茶色の子犬が、透明な犬の存在に気がつきました。

「君は、誰にも見えなくて淋しくないの？」

「淋しい？　とんでもない。毎日違う色になれるのって、すてきなんだよ」

透明な犬は走ります。

焦げ茶色の子犬も、ついて行きます。

走って走って、二匹は坂道に出ます。

そのまま空に続いているような、上り坂の道です。

透明な犬は、坂のてっぺんで大きくジャンプをして、光の中に飛び込みます。

あとには、焦げ茶色の子犬と影だけが残りました。