土曜日の昼寝

 

こんな日は外に出かけなくちゃもったいないというくらい晴れて暖かく気持ちのいい土曜日の午後。

一番贅沢な時間の使い方は昼寝をすること。

それは、プールの水がゆらゆらと揺れるような眠り。

わたしはうまく泳げないくせに、そのぬるい水の中にいるのが好きだ。

小一時間ほどしてプールの底から浮かび上がると、思い切り息を吸い込みたくなる。

昼寝から覚めるのは、泳いだあとと同じ気だるい心地よさがある。

寝るはずではない時間に眠る、ほんの少しの罪悪感も同時に。

昼寝の底から浮かび上がるとき、いつも何かを思い出しそうな気がする。

忘れていた遠い昔の記憶か夢の切れ端か寝ながら無意識に聞いていた日常のざわめきか、

目覚めた瞬間にそれが何かわからなくなるけれど、大事なことを思い出す、ような気がする。

そんな休日を重ねると、わたしの体内に思い出されないままのあやふやなかけらがたくさん溜まってゆく。

溜まったかけらたちのせいで、次の昼寝のあとの目覚めには、

やっぱり思い出しかけたことがなんだったのかわからなくなる。

それは悪循環の螺旋階段。

時々、ひどく悲しい気分で目覚めることがある。

そんなときにはすぐに目を開けられず、悲しさをかけらの底に押しとどめないといけない。

でないと起きてからうまく歩けないだろうし、そのあと買い物に行っても台所に立っても、

言いようのない不安にとらわれてしまうから。

その悲しさがなんなのかわからなくても、悲しみのもとを手なずけなければ、日常に戻るのは難しい。

楽しい気分で目覚めたときには、思い切ってぱっとベッドから飛び出す。

口元には自然に笑みが漏れ、家族にもやさしくなれる。

寝る前に読んだ本の続きを演じているのか、前世のおぼろげな記憶が残っているのか、

勝手に憧れている別の自分を生きているのか、土曜日の昼寝のあとにはいつも不思議な気だるさが残る。