駅のホーム
この時期、午前四時半は夜の仲間だ。空には月や星が瞬き、ホームの白い蛍光灯は安っぽく光っている。
間もなく始発電車が到着する。早朝から出かける人に混ざって、ベンチで横になっている人がいる。
この人たちは昨夜の続きのまま、まだ一日を終えていない。しかし、駅では新しい一日が既に始まっている。
同じ空間に、時間がいびつに流れる。
僕はホームの端から端まで歩いた。時々線路に転落する酔っ払いがいるので、見回らないといけない。
五十メートルほど先の階段の下に、白いコートの女性がしゃがんでいた。驚くほど華奢な背中だった。
僕は、黄色い線より明らかに外側にいる彼女に声をかけるために走った。
乾いた靴音が響く。その音に驚いたのか、女性は立ち上がって僕を見た。
少し崩れているが完璧な化粧と、焦げ茶色の巻き髪、きつい香水の彼女の足元に、不似合いな吐瀉物があった。
「あの、もうすぐ電車が来ますので……」
僕は駅員として、彼女に声をかけた。
「あ、はい。ここ汚しちゃって……、ごめんなさい」
悪いことを見つかった子どものような謝り方だった。
「いえ。大丈夫ですか？」
「ええ、もう平気」
言葉のとおり、彼女の笑顔は爽やかで、新しい一日にふさわしかった。
その時、轟音と共に風が吹き、電車が滑り込んできた。
乱された髪をかきあげて、彼女は再び僕に微笑んで、始発電車に乗り込んだ。
それから、早番の日は彼女の姿を探した。でも、幸運は簡単には訪れない。
僕は、中年の酔っ払いの後始末をしたり――彼女の時は嫌じゃなかったのに、何度してもうんざりする――、
朝早くから孫に会いに行く老婆の世話をしたりしていた。
だから、気づいた時にはもう始発電車が走り去った後ということが続いた。それは、今までと同じ毎日だ。
あれから二週間が経ち、あの綺麗な女性に会ったのは、何かの間違いだったのではと思うようになっていた。
しかし、幸運は不意に訪れる。特別寒い朝、彼女が僕に話しかけてきた。
続きは短篇集でどうぞ。