アオキくんのはさみ

アオキくんは美容師です。

「いいわねえ。彼氏にカットしてもらえるなんて」

　エリカは友達にいつも羨ましがられます。

　シャンプーもパーマもしますが、やはり美容師の腕前はカットで決まります。

そのために一人前の美容師はみんな、「マイはさみ」を持っているのです。

定期的に研ぎ屋さんに研いでもらうはさみは、ピカピカで先がピンと尖っています。

うっかり他人が触ると、カマイタチにあったような鋭い傷がつくのです。

「だから言っただろう。そのはさみは特別なんだから、絶対に触ったらだめだよ」

　そんな時、エリカは少しだけはさみに嫉妬してしまうのです。


エリカがアオキくんと会えなくなって、三ヶ月が経ちました。

別れたわけではありません。

お互いに忙しいという理由で、デートができなかったのです。

火曜日がお休みのアオキくんと、日曜日がお休みのエリカでは、なかなか予定が合いません。


久し振りに会った日、アオキくんはエリカにプレゼントをくれました。

小さな四角い箱は、指輪やネックレスにしては大きく、ぬいぐるみには小さすぎます。

「開けてもいい？」

アオキくんがうなずくと、エリカはそっと蓋を開けました。

その瞬間、エリカの前に七色の虹が立ち上がりました。

「研ぎ屋のおやじさんがもう引退するからって、特別な研ぎ方をしてくれたんだ」

「とってもきれい。どうもありがとう」

　エリカはアオキくんが切り取ってくれた虹を見ながら、

こんな特別なはさみなら、ふたりだけの時間を切り取ることもできるかしらと思いました。