ぼくの箒
毎日きちんと掃除しているのに、何故こんなにたくさんのごみが出るのだろう。
店の前の通りには、タバコの吸殻、ポケットティッシュ、ハンバーガーの包み紙、ペットボトル、空き缶など、
雑多なものが枯葉と一緒に集まっている。
ちょうど吹き溜まりになっているからだろうが、こうきりがないと、
夜のうちに誰かが嫌がらせをしているとしか思えない。
一か月前までは、こんな生活もわりと気に入っていた。
開店前に掃除を済ませ、二時頃までオーダーをとったり皿洗いをしたりすれば、あとの時間は自由だ。
夕方から深夜まで、ぼくは仲間と一緒にバンドの練習に精を出していた。
ところが、ある日リーダーのＫが突然辞めたいと言い出した。
三年間努力したけれど、ちっとも芽が出ない。自分の才能に限界を感じたと言う。
誰でも少しは心に抱えていた不安を口に出されたことで、ほかの仲間の決心も揺らぎ始めた。
結局、自分の人生は自分で決めるしかなくて、みんなそれぞれの道に歩いて行った。
特に当てもなかったぼくは、とりあえず前から続けているバイトを辞められずにいた。
ちりとりでごみを集めようとした時、その中に一つの種を見つけた。
薄い緑色で、大きさはビワの種と同じくらいだ。
何の種かわからなかったが、拾い上げてジーンズのポケットに入れた。
いつもどおりの仕事をこなしながら、ポケットの中が妙に気になっていた。
アパートに帰ると、ティッシュを濡らして小皿に置き、その上に緑色の種を乗せた。
いきなり土に埋めるより、発芽させてからのほうがいいと思った。
小学生の時に理科で習ったことを、頭の隅で覚えていたのだ。
柿の種を埋めた蟹になった気分で、「早く芽を出せ」と祈った。
翌朝起きると、一つしかないはずの種からたくさんの芽が出ていた。
ちょうど貝割れ大根のように、細い茎が揺れていた。
小皿に水を足してから、日当たりのいい窓辺に置き、ぼくはバイトに出かけた。
夕方帰宅すると、部屋の中は草でいっぱいになっていた。
ちょっと驚いたが、草の上に横たわった瞬間に大笑いしていた。
笑いながら、こんなに笑ったのは久し振りだと思った。
続きは短篇集でどうぞ。