ケルムくんの冬の一日

　ケルムくんは、紅茶を飲みたくなりました。

その日の朝はとても寒くて、体に何か温かいものを入れないと、凍えてしまいそうだったのです。

　ところが、戸棚を探したケルムくんは、紅茶を切らしていたことを思い出しました。

買わなくちゃと思っていたのに、うっかり忘れていたのです。

「いやんなる」と、ケルムくんは声に出しました。

　まだお店が開く時間ではありませんので、ケルムくんは、とりあえずお湯を飲みました。

でも、こんな時の代用品ほど、あじけないものはありません。ケルムくんは、二口だけ飲んでお湯を捨てました。

それから、体操をしました。手足の先から少しずつ暖まってきましたが、体の芯は冷えたままです。

これは、どうしても紅茶を飲まなくてはいけません。

　ケルムくんは、厚手のセーターとコートを着て、マフラーを巻いて手袋をしてブーツを履いて家を出ました。

歩いて一時間かかるスーパーマーケットへ行くために。

　ケルムくんは、マフラーに顔をうずめて、肩を縮めながら歩きました。

そのうちに暖かくなるかと思いましたが、足の先からどんどん体温が奪われてゆきます。

ケルムくんは、早足で歩きました。

　途中、何人かとすれ違いました。ケルムくんは「ごきげんいかが」と挨拶をしました。

すると、みんなはこう言いました。

「ありがとう。おかげさまで。でも、早く家に帰って、紅茶が飲みたいですね」

　ケルムくんは、こんなに寒い日は、誰でも紅茶がほしくなるんだなと思いました。

　スーパーマーケットに着くと、ケルムくんは脇目も振らずに紅茶の棚に急ぎました。

野菜売り場や牛乳売り場は、外よりも寒いのです。

　たくさんの缶の中から、いつもの紅茶を取ろうとした時、ケルムくんの左側から同じ缶に手が伸びてきました。

それも、猫の手が。ケルムくんは、びっくりして手をひっこめて、猫を見ました。

　全身猫そのものなのに、大きさは人間ほどあります。しかも、猫は二本足で立っています。

ケルムくんがますます驚いていると、猫が、

「やあ、ケルムくんじゃないか」

と声をかけてくるではありませんか。

続きは短篇集でどうぞ。

back