よぞらのくじら
よしきは、ちいさいころから、ねるのがだいきらいでした。
じぶんがねているあいだに、たのしいことがあると、こまるからです。
ねているあいだに、そんをするのは、だれだっていやですからね。
あるなつのひです。そのよるはとてもあつくて、ママはねるまえに、
「きょうは、ねったいやになるわ」
と、いっていました。よしきは、
（「ねったいや」って、「ねったいぎょ」みたいだな）
と、おもいました。ねったいぎょは、おみせでみたことがあります。
きいろやあおの、とてもきれいなさかなです。
よしきは、「ねむれなくてもしずかにしていなさい」と、ママにいわれるので、
ふとんのなかでちいさなこえでうたったり、えほんのおはなしをおもいだしたりしていました。
でも、ぜんぜんねむれません。あついからです。
（ねったいやって、どんなよるだろう）
と、おもいながら、カーテンをそっとあけてみました。
「わあっ！」
よしきは、とてもおどろきました。まどのそとを、ねったいぎょが、たくさんおよいでいるのです。
よしきはわくわくして、ベランダにでてみました。
そとにはみずではなくて、ちゃんとくうきがありました。
てをのばして、さかなをつかまえようとしましたが、とどきません。
そこで、およぐまねをしてみました。
ほんとうは、まだみずにかおをつけることしかできないけれど、まねだけならすいすいおよげます。
そんなことをしていると、いつのまにか、よしきのからだがうかんでいました。
いつもは、たかいところはこわいけれど、きょうはちょっとどきどきするだけでした。
よしきは、ともだちのたくやのいえに、およいでいってみました。
でも、みんなねているようで、まっくらでした。がっこうもこうえんも、しーんとしています。
しずかなまちを、よしきとねったいぎょだけがおよいでいるのです。
たくさんおよいだよしきは、ちょっとつかれてきました。こうえんのすべりだいのうえでやすんでいると、
「やあ、こんばんは」
と、こえがしました。びっくりして、あたりをみまわしましたが、だれもいません。
でも、うえをみると、おおきなくじらがいました。
続きは短篇集でどうぞ。