くつしたさん　　

ベランダに　せんたくものが　ゆれています。

こものほしに　ぶらさがった　おかあさんのくつしたが、ためいきをつきました。

「ああ。わたしたち、まいにち　いっしょけんめい　はたらいているのに、

なんだか　むくわれないわねえ」

すると、となりの　おとうさんくつしたが　うなずきました。

「ほんと　ほんと。

ぼくたちがいるのは　くつのなか　なのに、『くつした』なんて　へんだよな。

おまけに、あせとよごれで　くさくてたまらない」

こどもくつしたも　まけずにいいます。

「Ｔシャツさんや　タオルさん、エプロンさんは、みんな　いいなまえだね。

ぼくたちも、じぶんだけの　なまえがほしいよ」

「でも、どうやって　そのきもちを　にんげんにつたえるの？」

おかあさんくつしたの　いうことは、みんなを　おちこませました。

がっかりしていると、おとうさんくつしたが　いいことをおもいつきました。

「そうだ！　ぼくたちは、かたっぽだけになるんだ。

そうすれば、にんげんは　ぼくたちのありがたみが　わかるよ」

そのかんがえに、みんなさんせいしました。

ゆうがた、とりこまれた　せんたくものが　たたまれるまえに、

ひだりのくつしただけが　にげだしました。

くつしたは、にげるとちゅうで、たんすのなかの　くつしたにも、

このすてきなおもいつきを　はなしました。

おかあさんは　せんたくものをしまうときに、

くつしたが　かたっぽしかないことに　きがつきました。

ひきだしのなかにも、たくさんのくつしたがあるのに、みんな　かたっぽだけでした。

のこされた　みぎのくつしたは、いつもいっしょにいた　ひだりがいなくなって、

すこしさみしくなりました。

ひだりのくつしたは、もう　にどと　もどらないのでしょうか？

それに、みんな　どこへいったのでしょう？

そのよる、みぎのくつしたも　そっと　いえをでていきました。

くつしたさんは、ほんとうは、あたらしいなまえが　ほしかったのではありません。

じぶんたちの　すきなところに、あるいていきたかったのです。

あなたのいえの　くつしたは、ちゃんと　たんすにありますか？