究極の美

 

歳を重ねるのは当たり前のことなのに、いつの時代も若さがもてはやされる。

特に女性は、若いだけで美しさの半分を手に入れたようなもの。

テレビや雑誌には、今日も美容と健康の情報が溢れている。

 

「今年の春メークは、口紅が主役!」

なんて言われるので、睫毛を一ミリでも長く見せるために買ったマスカラたちは、即効で鏡台の奥へ退場。

かわりに、ぷるんとした感触のジューシーリップを買いに、化粧品売り場に急ぐ。

「あら、お客様。お肌が随分お疲れのようですね」

この一言で、乾燥肌に潤いを与えて、毛穴ケアまでしてくれるファンデーションも新調。

お金を払うときに、店員がさりげなく、でもじっと手を見るので、ネイルサロンにも行かなくちゃと思う。

ネイリストが言うことには、

「わたしたちができるのは、外側のケアだけ。

本当に美しい爪にするには、やっぱり体の中からお手入れしてあげないといけませんよ」

 

基本のサプリメントはビタミン、ミネラル、カルシウム。

坑酸化には、ポリフェノール、リコピン、カテキン。

体脂肪の燃焼には、フォースリーン、α―リポ酸、カルチニン。

糖分・水分カットには、ガルシニア、ギムネマ、メリロート。

女性らしくなりたいのなら、大豆イソフラボン、プエラレラミリフィカ、ザクロエキス。

そのほか、目のためにはブルーベリーエキス。

体の節々の痛みにはコンドロイチン。

お酒が好きならウコンで、花粉症にはシソエキス。

鉄分不足にヘム鉄、頭のためにドコサヘキサエン酸。

生活習慣病が気になるあなたは、セサミエキスにアガリクス。

お腹のためにはオリゴ糖。体調不良にエキナセア。

若さのためにはローヤルゼリーやプロポリス。

体臭が気になる人にはシャンピニオン。

そして、美人になるには、コラーゲン、エラスチン、プラセンタ、ヒアルロン酸、コエンザイムQ10。

エトセトラ、エトセトラ……。

興味のない人には何が何だかさっぱり分からない、カタカナ名のサプリメントや化粧品をせっせと買い込み、

少しでも若く、美しく……。

 

わたしは、死ぬのは怖くない(本当に? ええ多分)。

でも、死んだ途端に体が腐ってゆくのを止めることができないのが怖い。

死は終点ではなく、生物を土にかえすための作業の始点。

それは、容赦なく襲いかかる真実。

ああ、その時せめて心くらいは、清く正しく美しく。

 

だけど、こんなにいろいろな研究がされているなら、きっとあと数年後にはこんなものも発売されるはず。

「あなたの死後の骨を白く美しく見せるためには、こんなサプリがお奨めです」