「ぼうや、こっちへおいで。おじさんがお話をしてあげるから」

ぼくは、おじさんが好きだ。昼間家で「研究」をしているおじさんは、ぼくの憧れだ。

できることなら、ずっと一緒にいたいと思う。でも、おじさんはみんなに嫌われている。

ママも、ぼくが夕方家に帰ると決まってこう言う。

「ぼうや、あのおじさんのところへは、行かなかったろうね」

って。そんな時、ぼくはとっても不愉快な気分になる。でも、わざと

「あんなとこ行くもんか。それよりママ、お腹が空いたよ」

って話を逸らす。だけど、ぼくは部屋に入ってから、こっそり

「おじさん、あんなこと言ってごめんね。ぼく、おじさんのこと大好きだよ」

って謝るんだ。

ぼくは、おじさんが好きだ。おじさんも、ぼくが好きだ。

そして、おじさんは星が好きだ。星は、いろんなことを教えてくれるって。

おじさんは、本当は、宇宙飛行士になりたかったらしい。

「いつかきっと実現させる。そうしたら、ぼうやを星空へ案内してあげるよ」

って言うのが、おじさんの口癖だ。

おじさんのポケットには、夢がいっぱい入ってるんだよ。

ポケットに少しでも触れると、何だかちっちゃな、だけどすごく綺麗なものがこぼれるんだ。

ある日、ぼくはおじさんに夢の一つをもらった。

おじさんが一番大事にしていて、ぼくが一番欲しかった、マリンブルーのやつだ。

おじさんが、何故ぼくにそれをくれたか、分からない。

今まで、どんなにぼくが欲しがっても、どれ一つとしてくれなかったのに。

ぼくは、それが何を意味するのか分からず、ただはしゃいでいた。

数日後、おじさんはこう言った。

「おじさんの研究が、やっと認められたよ。今夜、お祝いをしよう。

ぼうやを招待するから、家で待っていてごらん」

ぼくは、嬉しかった。

その夜、ぼくは遅くまで起きて、空を見ていた。

でも、なかなかおじさんが現れる気配がない。

うとうと眠りかけていた時、突然ピカッと光ったものがあった。流れ星だ。

ぼくは、急いでお祈りをした。

それが、本当は、おじさんに会いたいって言わなきゃいけないのに、

ぼくはいつのまにか、あの娘のことを想っていた。

その星が、おじさんだったと分かったのは、次の日の朝だった。

朝、ぼくがトーストにかじりついていたら、ママがこう言った。

「今、隣の奥さんに聞いたんだけどね、あのおじさん、昨夜死んだそうよ。凍死だって。」

それは、事務的にママの口からこぼれたのだが、ぼくの胸に鋭く突き刺さった。

あの星は、おじさんだったんだ。何でもっと早く気づかなかったのだろう。

ぼくは、おじさんに星空を案内してもらってない。

いや、それよりも、おじさんにお別れを言ってないじゃないか!

何日か、ぼくは誰とも口をきかずに過ごした。

おじさんの葬儀は、ぼくが学校に行っている間に済んでしまい、

とうとう最後まで会えなかった。

あの娘のことさえ、想わなければ・・。

ぼくの中を、その言葉だけが駆け巡った。

気づいたら、冷たい北風の中をずいぶん歩いていた。

凍えた手をポケットに入れたら、何か触れるものがある。

取り出して見ると、それは青いガラスの破片だった。

でも、ぼくには、それがマリンブルーの星のかけらに見えて、仕方なかった。