モ モ カ ちゃん
一年一くみのモモカちゃんは、すごいんです。
字が上手で、いつも先生にほめられます。
さんすうセットをつかわなくても、けいさんができます。
なわとびの二じゅうとびが、五十かいとべます。
ピアノがとくいだし、えのコンクールで、しょうじょうをもらったこともあります。
そうじとうばんや、うさぎのせわをきちんとします。
こころがやさしくて、ともだちがたくさんいます。
でも、モモカちゃんの一ばんすごいのは、おにんぎょうのように、かおがかわいいところです。
モモカちゃんのりょうしんは、モモカちゃんがじまんです。
どこに出してもはずかしくない子って、モモカちゃんのことみたいです。
ある日、きゅうしょくでみかんが出ました。
モモカちゃんは、おともだちとのおしゃべりにむちゅうで、
うっかりみかんのたねもいっしょにたべてしまいました。
あっとおもったけれど、だれにも気がつかれていないようです。
モモカちゃんは、たねをたべたことをだまっていました。
おなかがいたくならないといいな、とおもいながら。
五じかん目のじゅぎょう中、モモカちゃんはなんだか、かおがかゆくなりました。
ほっぺたにさわると、ちょっとはれているみたいです。
かえりのかいがおわると、モモカちゃんはトイレにいって、かがみを見ました。
そうしたら、なんと、モモカちゃんのかおが、みかんになっていたのです。
まるくてオレンジいろのかおに、目やはながついています。
モモカちゃんは、びっくりしました。
（どうしよう！ わたし、みかんのかおになっちゃった！）
ドキドキしていると、いつもいっしょの、おともだちのミサトちゃんが、トイレにきました。
「モモカちゃん、早くかえろう」
ミサトちゃんは、モモカちゃんのかおを見ても、なにもいいません。
みかんのかおなんて、あんまりおかしいので、なにもいえないのでしょうか。
モモカちゃんは、ランドセルをとりに、きょうしつに行きました。
先生も、モモカちゃんのかおを見ても、なにもいいません。モモカちゃんは、だれかが
「モモカちゃんのかお、へんだね」
といってくれたらいいのに、とおもいました。そうしたら、いっしょにわらえるのに。
かえりみち、モモカちゃんはミサトちゃんと、なにをはなしたかわかりませんでした。
そのくらい、モモカちゃんのドキドキは大きかったのです。
マンションの入り口で、ミサトちゃんとさよならしてから、
モモカちゃんはいえにはかえれないとおもいました。
（ママはきっと、わたしのかおがかわったことに気がつくわ。
でも、そうしたら『あなたは、うちのモモカじゃありません』って、いえに入れてもらえないかもしれない）
モモカちゃんは、ママとパパにまい日「かわいい、かわいい」といわれています。
でも、いまのモモカちゃんのかおは、ぜんぜんかわいくありません。
そんなことをかんがえていたとき、かぜがふいて、
モモカちゃんのはなに、あまいかおりをはこんできました。
いいかおりのするほうにいくと、そこには、きれいな花がさいていました。
「この花、なんていう名まえだったかな。ママがすきだっていってたけど」
モモカちゃんは、しばらくかんがえてから、花をぱくっとたべました。
くだものも、いいかおりがするのです。お花もしょくぶつだから、たべられないことはないでしょう。
モモカちゃんは、みかんのたねをたべて、みかんのかおになったのなら、
お花をたべれば、お花のかおになるとおもったのです。
にんげんのかおになれないなら、できるだけかわいいもののほうが、いいじゃありませんか。
でも、しばらくすると、おなかがいたくなりました。
（どうしよう。どくがあったのかな。わたし、へんなかおのまま、しんじゃうのかな）
モモカちゃんは、おなかをおさえて、なきそうになりながら、いえにかえりました。
ドアをあけて、小さなこえで「ただいま」といったら、ママがげんかんまではしってきました。
いつもはそんなことないのに、きょうはどうしたのでしょう。
「モモカ、なにかあったの？」
しんぱいそうなママのこえに、モモカちゃんはドキッとしました。
「べつに、なんにもないよ」
モモカちゃんは、ママのかおを見ないでこたえました。
すると、ママはモモカちゃんのうでを、ぐいっとつかみました。
「いたい……」
「さっき、ミサトちゃんのママと、おでんわしてたの。
ミサトちゃんがかえってきたっていわれたのに、モモカはなかなかかえってこないじゃない。
ママ、しんぱいしたのよ。いままで、どうしてたの？」
モモカちゃんは、一気にはなすママのかおをじっと見ました。
ああ、ママの目には、どんなかおがうつっているのでしょう。
そうおもったとたん、モモカちゃんはワーッとないてしまいました。
びっくりしたママは、モモカちゃんをだきしめて、あたまをなでてくれました。
しばらくなくと、こころがすっとしました。
モモカちゃんは、ママのブラウスでなみだをふくと、きゅうしょくのときのできごとをはなしました。
みかんのかおになったというと、ママはじぶんにおこったことのように、かなしみました。
お花をたべて、おなかがいたくなったというと、すぐにベッドにつれていってくれました。
すこし休むようにと、ママはえ本をよんでくれました。
五さつめのとちゅうで、モモカちゃんはねむりました。
目がさめると、ママはまだモモカちゃんのへやにいました。
モモカちゃんのかおを見ると、にっこりわらってくれました。
「モモカは、いつもがんばっていたから、つかれたのね。
ママたちもわるかったわ。ごめんね。これからは、そんなにむりしなくていいわよ。
ママは、たのしそうなモモカが、だいすきなんだから」
ママは、モモカちゃんに手かがみをわたしてくれました。
さいしょは、ぎゅっと目をとじていたモモカちゃんも、
「ほら、かわいいモモカがいるよ」
というママのこえに、おそるおそる目をあけてみました。
かがみにうつったかおは、いつものモモカちゃんです。
なんだかひさしぶりにあった人みたいで、てれてしまいました。
「ママ、ミサトちゃんとあそんでくるね」
モモカちゃんは、ベッドからとびおりると、おともだちのいるこうえんへ、はしっていきました。
