日曜日
「じゃあ、またね」
「うん。また来週」
駅のホームへの階段の下で手を振った。
日曜日のデート。会社に行く日と同じ時間に起きて、駅の改札口で待ち合わせた。
話題になっている映画を見て、雑誌に載っていたレストランで昼食をとった。
ウィンドショッピングをしたり、カフェで休んだりした。映画館を出てからずっと、とりとめのない話をした。
Ａちゃんの家に、子犬が生まれたんだよ。すごく小さくて、かわいかった。
先週、会社の人が休暇をとってボストンに行ったんだって。いいなあ。
同じ食べ物でも、器によっておいしさが変わるのは気のせいかな。
今年は緑色が流行っているんだね。緑色の服を着て、人間も植物みたいに生きられればいいのに。
誰か、この暑さを保存して冬に送る装置を発明してくれないかな。
そんなふうに、たわいもない会話を続けられる人と一緒にいるのは、とても心地いい。
ふたりがずっと付き合っているのは、お互いの波長がよく合うせい。
黙っていても気づまりでなく、どんな方向に投げられた話も受け止めて投げ返す。
簡単なようでも、すべての人とできることではない。
だけど、帰りの電車でいつも考えるのは、相手の顔をちゃんと思い出せないこと。
あんなに長い時間を過ごしたのに、どうしてだろう。
夜は、窓ガラスが鏡になって、車内の風景を映し出す。
後ろに映った人を見て、突然「あ！」と気づいた。
あの人は、いつも帽子を目深にかぶっている。だから、顔がよくわからない。
自分の頭に手をやった。そこにも帽子があった。ふたりは、いつもお揃いの帽子をかぶっている。
わたしたちが引かれ合うのは、同じ糸でつくられた帽子がおしゃべりしたがるせい。
今度の休みには、帽子をかぶらずに会ってみよう。
ふたりに赤い糸が結ばれていれば、今までと同じように、きっとたくさん話せるはずだから。