おばあさんの手

おばあさんは冷たい人だった。

母が出かける時、わたしはおばあさんの家に預けられた。

おばあさんは嬉しそうに迎えてくれたが、少し大きくなると無条件に受け入れられているわけではないと気づいた。

それでもわたしは子どもらしくそんな現実は知らないふりをしていたし、

おばあさんもおばあさんらしく幼い孫にやさしく接するように努めていた。

おかげでふたりの関係は、さぞ微笑ましいものに見えただろう。

わたしがおばあさんに距離を感じたのは、手を繋いだ時だった。

散歩に行く時、何気なく当たり前のようにすがったその手は、驚くほど冷たく乾いていた。

わたしは枯れ枝を握ってしまったのかと、一瞬体を硬くした。

おばあさんにもわたしのこわばりは伝わり、ふたりの手はぎこちなくなったが、

すぐにお互い何事もなかったように取り繕った。

それはふたりだけの秘密だった。

それから注意して見ていると、おばあさんはわたしが帰る時、来た時以上に嬉しそうな顔をすると気づいた。

おばあさんはわたしを好きではないのかしらと思ってからは、もうそれしか考えられなくなった。

ある冬、わたしはひとりでおばあさんの家に泊まった。

母が遠くに住む友人のお葬式に行く日だった。

おばあさんの家には何度も泊まったが、いつもは母が一緒だった。

夜蒲団に入ったわたしは、なかなか寝つけず何度も寝返りを打った。

すると、隣の部屋にいたおばあさんが襖を開けた。

わたしはやまんばの家に迷い込んだ小僧さんのように、どきどきした。

「眠れないの？」

おばあさんの声に、わたしは頷いた。

おばあさんは母のように手を握って温めるかわりに、足元に湯たんぽを入れてくれた。

体が温まると、だんだん眠くなった。

おやすみも言えなくなった頃、おばあさんはわたしの瞼をそっと指で撫でた。

冷たい指は、なんだかとても心地よかった。

次の朝起きると、おばあさんは台所で食事の仕度をしていた。

炊き立てのご飯とお味噌汁、魚の干物や納豆で、母のつくるトーストやサラダとは全然違った。

朝食が済むと、おばあさんはお皿を洗い、洗濯をし、掃除機をかけ、雑巾で床を拭いた。

ほかにすることのないわたしは、なんとなくおばあさんの後について、邪魔にならない程度に手伝った。

十一時頃にやっと一息ついて、ふたりでお茶を飲んだ。湯飲みがとても温かかった。

「おばあちゃん、これ使ってみて」

わたしはバッグから桃の形の容器に入ったハンドクリームを出した。

「まあ、今はこんなかわいいのがあるのね」

おばあさんの少女のような微笑みに、わたしは少女らしく微笑んだ。

「それ、あげる。わたしはまたお母さんに買ってもらうから」

おばあさんは、クリームをちょっと押し戴いてから引き出しにしまい、代わりにお手玉を出した。

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。

いつつのお手玉を器用に操る手は、もう枯れ枝なんかには見えなかった。