おなかのおおきなおうさま

 ありにとっては、むかしむかし。ぞうにとっては、ついさっき。

みなみからもきたからも、とおいくにのおはなしです。

 そのくにのおうさまは、とてもくいしんぼうでした。

どのくらいくいしんぼうかといいますと、あさごはんをたべたあと、

「ごちそうさま」

とは、いわないで、

「つぎ、なにたべる?」

と、いうのです。

 おひるごはんのあとだって、

「ごちそうさま」

とは、いわなくて、

「ああ、おなかがすいた」

と、ためいきをつきます。

 ゆうごはんのすぐあとも、

「ごちそうさま」

なんて、いわないで、

「もっともっとたべたいよ!」

 もちろんおやつだって、一にち五かいもたべるのです。

くいしんぼうのおうさまは、あさからばんまでたべてばかり。

 たいへんなのは、りょうりちょう。

まいにちまいにちつくりつづけて、やすむじかんがありません。

それよりもっとたいへんなのは、おしろのきんこがかりです。

おうさまが、たべて、たべて、たべつづけるので、おしろのおかねはへるばかり。

「おうさま、もうやめてください! これいじょうたべつづけては、あしたからたべるものがなくなります」

 たべるものがなくなるのは、おうさまとてもこまります。

しかたがないとがまんして、おやつを一にち三かいにへらしました。

 さて、あるひ。

おなかのすいたおうさまは、なにかおいしいものはないかなあと、ぶらぶらさんぽにでかけました。

おしろのそとでは、ひとびとがいっしょけんめいはたらいています。

「おうさま、こんにちは。よいおてんきですね」

 にこやかにはなしかけるのうふには、

「うん」

と、ひとことへんじをし、

「おうさま、どちらへおでかけです」

 にばしゃをひくしょうにんには、

「ちょっと……」

と、ことばをにごします。

ひとびとがあせみずながしてはたらいているのに、おうさまはたべものをさがしているだけなんて、やっぱりはずかしいですからね。

 ながいことあるいたおうさまは、もうおなかがぺこぺこです。

おしろにもどろうかなとおもったとき、どこからかいいにおいがしてきました。

それは、あまずっぱいかじつのにおいで、おうさまははなをくんくんさせて、どこにあるのかさぐりました。

 おうさまのあるいているみちのよこには、ぐるりとへいがめぐっています。

いいにおいは、そのへいのなかからただよってくるようです。

おうさまは、あちこちさがして、とうとうへいのこわれたところをみつけました。

 これは、のうさぎのひみつのとおりみちでした。

よなかにこっそりくぐりぬけ、こどものためにおいしいかじつを、ひとつかふたつもらうため。

 さいわい、まわりにはだれもいませんでした。

おなかのすいたおうさまは、せまいあなをくぐりぬけ、へいのなかにはいりました。

そこはまあ、なんとすてきなところでしょう。

どこからどこまで、りんごばたけ。

みぎもひだりもはてしなく、みどりのきにはあかいみが、それはたくさんなっています。

 おうさまは、もうがまんができません。

りんごをひとつてにとりました。

ひとくちたべて、おうさまはびっくり。

それは、これまでにたべたなかで、いちばんおいしいたべものでした。

おうさまは、てあたりしだいにぱくぱくと、りんごをたべて、たべて、たべまくりました。

 おうさまがむちゅうでたべつづけ、七十五こめのりんごをてにしたとき、うしろでかさっとおとがしました。

はっとわれにかえったおうさまは、うしろもみないでにげだしました。

けれども、おなかがとてもおもくて、ちっともはやくはしれません。

えい、このほうがずっとはやいと、おうさまはころころころがって、こわれたへいのところまでやってきました。

 ところが、さあ、にげだそうとおもったのに、おなかがつかえてでられません。

まえにもうしろにもいかれずに、どうしようとこまっていると、うしろから、えへんとせきばらいがきこえました。

かおはみえませんが、きっと、りんごばたけのしゅじんでしょう。

おうさまは、おおきなおなかをできるだけちいさくして、あやまりました。

「ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。こんなにたべるつもりじゃなかった。

ほんのすこしだけとおもったのに、あんまりおいしくて、とまらなくなってしまった」

「これからは、こんなことはしませんか?」

「しない、しない」

「ぜったいしないと、やくそくしますか?」

「ぜったい……とはいえないかもしれないけど、しないようにしてみようかな」

 なんともよわきなおうさまです。

「ぜったいしないとやくそくすれば、ここからだしてあげましょう。それに、このことを、ほかのひとには、ないしょにしてあげましょう」

「ここからは、すぐでたいけど。ほかのひとには、しられたくないけど。

でも、わしはくいしんぼうのおうさまだから、ぜったいなんて、じしんがないな」

 とてもしょうじきなおうさまです。

「しかたがない。では、わたしがもうぜったいに、くいしんぼうのおうさまに、ならないようにしてあげましょう」

「ありがたい。おれいに、おまえをわしのだいいちのけらいにしてやろう」

 そのとき、なにがおこったのでしょう。

おうさまのおなかが、ちくっとしたとたん、なんだかきゅうにねむくなり、あなにはさまったまま、すっかりねむりこんでしまいました。

 すうじかんご。

おうさまは、おなじばしょでめをさましました。

なんだかへんなかんじです。

あれっとおなかをみてみると、とてもちいさくなっています。

どうしたのかな、とおもっていると、のうさぎがおおきなふくろをもってきていいました。

「おうさま、あなたはもうぜったいに、くいしんぼうにはなりませんよ。

あなたのいぶくろは、ほら、わたしがきりとって、こうしてもっていますからね」

 さっき、おうさまとはなしていたのは、りんごばたけのしゅじんではありませんでした。

おうさまはますいをかけられて、りこうなのうさぎにしゅじゅつをされていたのです。

 それにしても、なんとまあ、おおきないぶくろでしょう。

ぞうが一とうはいりそうなくらいです。

これでは、おなかがすいたのはあたりまえです。

のうさぎは、おうさまのおなかを、きったりぬったりして、もとのおなかにいぶくろを、ほんのちょっぴりのこしました。

「おのぞみどおり、おうさまはここからでられるし、もうぜったいにたべすぎることがありません。

おうさまもやくそくをまもって、わたしをけらいにしてください」

 おうさまはとてもおどろきましたが、やくそくはやくそくです。

のうさぎを、おしろにつれてかえりました。

 こののうさぎは、とてもかしこくて、どんなじゅうびょうにんも、たちまちしゅじゅつでなおしたり、

おうさまにただしいじょげんをしたりしました。

それから、おうさまとおでかけして、おなかがすいているひとにであったら、いつでもおいしいたべものをだしてあげました。

そのたべものは、あのおうさまのきりとったいぶくろからでてくるのです。

おうさまは、これまでにずいぶんたくさんたべてきたので、そこにはたべものがやまほどはいっていたのです。

 おうさまはというと、もうあんまりたべないようになりましたし、

あのりんごがとてもきにいったので、いまではじぶんではたけのせわもしているんですって。