くいしんぼうのおおかみ
もりに、おおかみがすんでいました。
おおかみは、とてもくいしんぼうで、もりにあるものは、きのみでも、くさでも、なんでもたべていました。
でも、あるとき、おおかみはおもいました。
「はっぱばかりたべるのは、もうあきた。もっと、おいしいものがたべたいな」
ちょうどそのとき、おおかみのまえを、うさぎがとおりかかりました。
「こりゃ、うまそうだ」
おおかみは、したなめずりをしながら、うさぎにちかづきました。
うさぎは、なんだかせなかがぞっとして、ふりむきました。
すると、そこには、よだれをたらしたおおかみがたっていました。
このうさぎは、とてもかしこいので、おおかみにはおどろきましたが、わざとおちついたこえでいいました。
「おや。おおかみさん。こんにちは」
ごちそうにあいさつされたおおかみは、とびかかるタイミングをなくしてしまい、
「あー、うー。こんにちは」
もごもごと、へんじをしました。
「どうしたの？ なんだか、おちつかないみたいだけど」
うさぎがわらうので、おおかみはこまってしまいました。
おまえをたべようとしていた、なんていったら、うさぎはいちもくさんに、にげてしまうでしょう。
おおかみは、うさぎをあんしんさせるほうがいい、とおもいました。そこで、
「いやあ。ちょっと、おなかがすいたから、たべるものをさがしにいくところなんだ」
とこたえました。うさぎは、
（ははーん。おおかみは、ぼくのことをたべようとしていたな）
と、きがつきましたが、そんなことはかおにださずにいいました。
「ちょうどよかった。ぼくも、おいしいものをたべようとおもっていたんだ。いっしょにどう？」
おおかみは、このさそいにおおよろこびです。
なんといっても、くいしんぼうのこと。おいしいものには、めがありません。
おおかみは、うさぎもたべたいけれど、うさぎのいうおいしいものも、たべてみたいとおもいました。
そこで二ひきは、もりで、きのみやくだものをあつめました。
それから、はたけへいって、にんじん、たまねぎ、じゃがいも、キャベツなどを、すこしずつしっけいしてきました。
はやくはたけからもどらないと、おひゃくしょうさんにみつかります。
おおかみは、どきどきしていました。
でも、うさぎは、のうかのねこと、のんびりとおしゃべりなんかしています。
しびれをきらしたおおかみは、ついにおおごえをだしました。
「おい！ うさぎ。おれは、もうおなかがぺこぺこだ。はやくしないと……」
おまえをたべちゃうぞ、ということばをきくまえに、うさぎは、ねこにさよならをいいました。
さて、もりへもどった二ひきは、うさぎのいえにいきました。
きちんとかたづいただいどころには、おなべやおさらがたくさんありました。
おおかみは、そんなものはみたことがありません。うさぎは、エプロンをつけて、
「ちょっとまっててね」
と、おおかみをテーブルのまえにすわらせ、りょうりをはじめました。
十ぷんたちました。まだできません。
おおかみは、だいどころにいるうさぎに、うしろからそっとちかづいて、みみをかじりました。
「いたい！ もう、おおかみさんったら。もうすこしだから、まっててよ」
おおかみは、くちにはいったみみのけを、ぺっぺとはきだしました。
二十ぷんたちました。おおかみは、まだはらぺこです。
こんどは、まあるいちいさなしっぽにかみつきました。
「いたいったら！ おおかみさん、だいどころでふざけると、あぶないよ」
おおかみは、しっぽはみためよりもかたいんだな、とおもいました。
三十ぷんたちました。あさからなにもたべていないおおかみは、そろそろがまんのげんかいです。
とうとう、うさぎにとびかかろうと、りょうてをあげたとたん。
「できた！」
うさぎが、おなべのふたをあけました。
すると、なんともいえないよいにおいが、あたりにただよいました。
おおかみは、りょうてをふりあげたわけをわすれてしまい、ぽりぽりとあたまをかきました。
そのくらい、よいにおいだったのです。
「おおかみさん、おまたせ。さあ、いっしょにたべよう」
うさぎは、二つのおさらにやさいたっぷりのスープをいれました。そして、
「どう？ ぼくのりょうり」
と、おずおずとたずねました。
おおかみは、一くちたべたとたん、かんげきして、こえもでませんでした。
よのなかに、こんなにおいしいものがあったなんて。
うさぎは、しょくごのデザートに、きれいなかたちにきったくだものをだしました。
おおかみは、うさぎをたべるのをやめました。
だって、もしたべてしまったら、こういうごちそうはもう二どと、たべられないのです。
一どだけおなかをまんぞくさせるのと、これからずっとおいしいものをたべられるのと、どっちがいいか、
くいしんぼうのおおかみなら、こたえはきまっていますよね。
