世界一美しいもの
ある国に、長い間お子さまにめぐまれない王さまとおきさきさまがありました。
どんなにりっぱなくらしをしていても、子どもがいないのは、さびしくてたまりません。
二人は毎日、神さまに「赤ちゃんをおさずけください」と、おいのりしていました。
七年たったある時、おきさきさまが、女の赤ちゃんをうみました。
赤ちゃんはとてもかわいらしくて、王さまをはじめ、お城中のけらいもみんな、
このおひめさまが大すきになり、大切に大切に育てました。
王さまは、娘に、美しいものだけをあたえるようにしました。
咲きほこる花、心が安らかになる絵、ねる前にしずかに流れる音楽。
美しいものにかこまれて育ったため、おひめさまは、心やさしく、とても思いやりのある人間になりました。
そうして、年月は流れ、おひめさまは、お年ごろになりました。
かがやくばかりに美しく成長したおひめさまは、一目見たら、だれでも、とりこにならずにいられないほどでした。
そのうわさは、下々の者にまでつたわっていました。
おひめさまの結婚相手を見つけるために、王さまは、国中に、おふれを出しました。
すると、独身の若者はみんな、ぜひおひめさまと結婚したいと、言い出しました。
中には、結婚しているのに、おくさんよりもおひめさまのほうがすきだという人も、出てくるしまつです。
王さまは、おひめさまには、国中で一番りっぱな者と結ばれてほしいと、ねがっていました。
なにしろ、自分の命よりも大事な娘です。
やさしくて、勇気があって、たくましくて、誠実で、愛情にあふれた男性こそ、
結婚相手にふさわしいと、思っていました。
でも、おひめさまが相手を気に入らなければ、お話になりません。
そこで王さまは、娘を一番よろこばせた者と、結婚させると言いました。
おひめさまが大すきなのは美しいものですから、
世界一美しいものを持って来た男の人が、結婚できるということになりました。
これを聞いた若者たちは、考えられるかぎりの美しいものを持って、お城にやってきました。
ある者は、全財産を使ってつくったドレス。
ある者は、森のおくで見つけた姿も歌声も美しい小鳥。
ある者は、花屋から買い占めた千本の赤いばらの花たば。
大きくきらびやかなダイヤモンドや、食べるのがもったいないほどきれいにかざりつけられたケーキ。
ありとあらゆる美しいものが、おひめさまの前に差し出されました。
続きは短篇集でどうぞ。