小さな洗濯屋さん
本日開店 親切・丁寧・洗濯屋 なんでも洗濯します。頑固なしみを落とします。 皺だらけのシャツも、ぴんとアイロンをかけます。 お代は良心的です。 |
ポストに、こんなちらしが入っていました。
地図を見ると、その洗濯屋は住宅街の中にあって、ここからわりと近いようです。
今日は春の日射しが心地よく、洗濯日和なので、重いコートやセーターを集めて出かけました。
地図を頼りに自転車を走らせ、色とりどりのチューリップの咲く庭を眺めながら、
うっかり通り過ぎてしまいそうなほど小さな洗濯屋を見つけました。
ガラス張りの扉を開けると、店主がにこやかに迎えました。
「こんにちは」
薄い白髪頭の、定年をとっくに過ぎたおじいさんです。
「これを、お願いします」
大きな紙袋二つ分の洗濯物を、よいしょとカウンターに乗せました。
おじいさんは、ふしくれだった手で、一つ一つ丁寧に汚れをチェックしています。
「今は、ただ洗濯物を預かって業者に委託するだけなのに、洗濯屋を名乗るところが多いでしょう。
うちは、わたしが責任もってきれいにしますからね」
それは安心ですね、と返事をしていると、扉が開いて、くすんだグレーの服を着たおばあさんが入って来ました。
背中を丸めて、小さな体をもっと小さくしているようなおばあさんは、
わたしを見て帰りかけましたが、お金を払っているのがわかると、後ろに並びました。
わたしは、お願いしますといって扉を閉めました。
お店のすぐ横に止めた自転車の鍵を外していると、おばあさんの声が微かに聞こえてきました。
「本当にどんなしみでも皺でも、きれいにしてくれるの？」
続きは短篇集でどうぞ。