草ちゃんの幸せ

草ちゃんの幸せ

　

　草ちゃんと花ちゃんが、じゃんけんをすることになりました。

左右にわかれる道のまんなかで、二人は真剣勝負です。勝ったほうが、左側に進みます。

　二人はここに来るまで、幸せについて話していました。

「みんなが、幸せになりたいって思っているよね」

「でも、同じようなことをしても、幸せになれる人と、そうじゃない人がいるね」

　そんなことを話していたのでした。

同じようにすごしているつもりなのに、ちがう人生になってしまうのは、

ほんのささいなことがきっかけではないか、という結論になりました。

そこで、このわかれ道のところで、別々に歩いてみることにしたのです。

これまでいっしょに歩いてきた二人が、ここで急にわかれるとどうなるか、と。

　最初に草ちゃんが、「ぼくは左」と言いました。

花ちゃんも、「わたしも左がいい」と言いました。

そこで、じゃんけんで決めることになりました。

　じゃんけんには、負けた相手を納得させる力があります。

くじの場合だったら、これと決めたら、運を天に任せるだけですが、じゃんけんは作戦が立てられます。

だから、真剣勝負の時には、じゃんけんが一番です。

　草ちゃんは、どうしても勝ちたい時には、手に力が入って、「ぐう」を出してしまいます。

でも、花ちゃんもそうかもしれません。

草ちゃんは、気負っていないことを見せるためにも、「ぱあ」を出せば勝てると思いました。

でも、花ちゃんもそうかもしれません。

いろいろ考えているうちに、どうしたらいいかわからなくなりました。

「いくよ、じゃんけんぽん！」

　花ちゃんのかけ声で、二人は手を出しました。

草ちゃんはぱあ、花ちゃんは高度なちょきでした。

そこで、草ちゃんは右の道を行くことになりました。

二人は、一時間したら、また会おうと言いました。

　さて、草ちゃんは右側の道をずんずん歩きました。

草がたくさんはえていて、草ちゃんの足をくすぐります。

草ちゃんが左がいいと思ったのは、左の道は広々として歩きやすそうだったからでした。

右の道は、どんどん草深くなっていき、ぼくの名前が草ちゃんだからって、こんな草はいやだなと思うくらいでした。

でも、もっと先に行けば、楽しい場所があるかもしれません。

幸せは、かんたんには手に入らないものですから。草ちゃんは、どんどん行きました。

　

続きは短篇集でどうぞ。