たんぽぽ

公園の片隅に咲いているたんぽぽ。

たんぽぽを見ているわたし。

春を知らせる黄色ね。

菜の花も黄水仙もレンギョウも黄色よ。

どんな場所でも咲けるのね。

ナズナもオオイヌノフグリもシロツメクサも、どこにでも咲くわ。

好きなところに行かれなくて、悲しいでしょう。

この場所しか知らないから、比べるものはないわ。

どこか遠くを夢見て、綿毛を飛ばすのでしょう。

何かを考えているわけではないわ。落ちたところがわたしの住み処。

ほかの花のように、もっと大事にされたいと思わない？

切り取られて花屋の店先に並ぶこと？　花壇でおぎょうぎよくすること？

たくさんの春を見たくない？

毎年春を感じているわ。来年も再来年も、もっとずっと咲くわ。

それは、あなたの子孫でしょう。

あそこのたんぽぽもむこうのたんぽぽも、たんぽぽでいるかぎり、どこに咲いてもみんな同じなの。

わたしはほかの誰とも違う、たった一人のわたしだわ。

そう思いこんでいるだけ。百年前の人間は特別でも、一万年前のヒトは標本でしかないじゃない。

人間は好きなところに行かれて、長生きできて、知恵があると言うけれど、

自分が特別だという思いにとらわれて、なんだかずいぶん不自由そうね。

そんなこと考えるわけもないたんぽぽが、公園の片隅に咲いている。