ちいさなたね


あるところに、ごつごつした岩だらけの山がありました。

ある日、小鳥が岩山に一粒の小さな種を落としました。


小さな種はがっかりしました。

「ああ、こんなところに落ちてしまった」

種が住んでいた森には、たくさんの木や草がありました。

こんなにさびしいところは初めてです。

種は近くの岩に話しかけました。

「ぼくがいた森では、春になると色とりどりの花がたくさん咲いたよ」

岩は何も言いません。

「夏にはぼくたちはぐんぐん育って、動物も人も楽しそうにしていたよ」

岩は黙っています。

「秋になると、葉っぱが赤や黄色になって、それはきれいだよ」

岩は答えません。

「冬は静かで、みんな春の夢を見るんだ」

岩は静かにしています。

「ここは静かだけど、森とは全然違う。

きっと季節がないんだろうな。

ああ、こんなところでは何を楽しみにしたらいいんだろう。

君たちみたいに、何も話さず、何も考えず、何も感じないでいるなんて、ぼくにできるだろうか」

岩はなんにも言いませんでした。


朝も夜も、種はひとりぼっちです。

そのうち、代わり映えのしない毎日に疲れて、眠ってしまいました。

朝が来て、夜が来ました。

またおひさまが出て、おつきさまと交代しました。

数え切れないくらいの朝と夜を繰り返す間、種はずっと眠っていました。

夢も見ないで、ただひたすら眠り続けていました。

おひさまは種をあたため、おつきさまは種を見守りました。

風は少しずつ砂を運んできて、雨は砂を湿らせました。

鳥はときどき、種を落としてゆきました。

岩は黙って、大雨の時には小さな種の傘になり、大風の時には盾になりました。


ある朝、小さな種は妙な気分で目が覚めました。

足元から根っこが生えています。

頭から小さな芽が出ています。

まわりを見ると、同じような仲間がたくさんいました。

小さな種は首をかしげました。

「ぼくはなんにもしていないのに、いったい誰が岩山を変えたんだろう」

岩はやっぱり、なんにも言いませんでした。