四．ひとりぼっちのゴリちゃん

　ひとりぼっちだったゴリちゃんも、

二年二組のみんなのおかげで、毎日楽しくすごすことができました。

ゴリちゃんと話ができるのは田中先生だけですし、それもまだ一回だけですけれど。

　おべんきょうの時間、ゴリちゃんは先生のつくえの上でじっと話を聞いています。

二年生のべんきょうはむずかしいのですが、一生けんめいがんばったので、

ゴリちゃんはひらがなが読めるようになりました。時計の見方もおぼえました。

でも、みんなにはないしょです。

　きゅう食の時には、ゴリちゃんは毎日ちがうはんにつれて行ってもらいます。

女の子たちは、パンやくだものをゴリちゃんの口にはこぶまねをします。

ゴリちゃんは食べなくてもへいきでしたが、おいしそうなにおいは大きなはなをしあわせにしました。

何より、みんながやさしくしてくれるのが、ゴリちゃんにはうれしいことでした。

　ある雨の日のことです。三時間目くらいから田中先生は頭がいたくなりました。

でも、子どもではないので、ほけん室でねていることもできません。

田中先生は、きゅう食の後でくすりをのみ、ごごのじゅぎょうをつづけました。

　子どもたちが帰ると、田中先生はドリルの丸つけや明日のプリントのじゅんびをしました。

その間もなんだか体がゾクゾクするので、いつもより早めに帰ることにしました。

田中先生は、にもつをまとめると

「すみませんが、お先にしつれいします」

　と、しょくいん室を出ました。

　その日、田中先生は、自分のことしか考えられなかったので、

ゴリちゃんをつれて帰るのをうっかりわすれてしまったのです。

　雨の日は、早い時間からくらくなります。

教室にのこったゴリちゃんは、田中先生が来てくれるのをじっとまっていました。

子どもたちのいない学校は、とてもしずかです。ゴリちゃんは、うとうとねてしまいました。

　だれかによばれた気がして、ゴリちゃんは目をさましました。

雨はすっかりやんで、空にはお月さまが顔を出していました。もう夜なのです。

　ゴリちゃんは、おかしいなと思いました。

田中先生は、いつもかならずゴリちゃんをつれて帰ってくれます。

でも今日は、むかえに来てくれませんでした。

「ぼく、わすれられちゃったのかなあ」

　ずっとおしいれにいた時は、ゴリちゃんは、そんなもんだと思っていました。

ひとりぼっちがこんなにさみしいなんて、

田中先生や二年二組のみんなに出会って、はじめて知りました。

なみだをながしていたゴリちゃんに、まただれかが声をかけました。

「ゴリちゃん、なかないで」

　その声はとてもやさしくて、さおりの声に少しにていました。

「ぼくをよぶのは、だあれ？」

「わたしですよ」

「わたしって、だれ？　どこにいるの？」

　ゴリちゃんは、キョロキョロしています。

「上を見てごらんなさい」

　ゴリちゃんは、ちょっぴり赤くなった上むきのはなをさらに上にむけて、天じょうを見ました。

電気のついていないけいこうとうが、何本もならんでいます。

「まどの外ですよ」

「ああ！」

　やっと気がつきました。そこには、大きなお月さまがほほえんでいました。

ゴリちゃんも、えがおで言いました。

「おつきさま、こんばんは」

「こんばんは、ゴリちゃん」

「きょうは、なんだかいつもよりきれいにみえますね」

　ゴリちゃんが言うと、お月さまはクスクスわらいました。

「どうもありがとう。きっと、雨がまわりのほこりをあらいながしてくれたからね。

だから、わたしは雨がすきなのよ」

「そうか。ぼく、いままであめはあんまりすきじゃなかったけど、これからはすきになるね」

「それはいいことね。ところで、さっきはどうしてないていたの？」

　ゴリちゃんは、田中先生においていかれたことを話しました。

「ゴリちゃんは、一人がさみしいのね。だったら、お友だちをさがしに行けばいいじゃない」

「だって、ぼくうごけないんだもの」

「そんなことないわ。さっき、わたしを見上げたでしょう？」

　お月さまに言われて、

ゴリちゃんは自分でも知らないうちに頭をうごかしていたことに気がつきました。

「ね。できそうでしょう？」

「うん。ぼく、いちどでいいから、ひとりでうごいてみたかったんだ」

　ゴリちゃんは、手をうごかそうとしました。

中にかたいものが入っているようで、ゆびはまがりませんでした。

つぎに、うでをうごかしてみました。かたが回るようになっています。

「うごいた！　うごいた！」

　こうふんしたゴリちゃんは、何回もうでを回しました。

それから、ゆっくり立ち上がってみました。

立ってから、ずっとすわっていたので、おしりがいたくなっていることに気がつきました。

子どもたちが体いくの時間にするように、ちょっと体そうのまねをしました。

「ぼく、がっこうをたんけんしたいな」

　さっきまでないていたことなど、すっかりわすれて、ゴリちゃんは先生のつくえをとびおりました。

「気をつけて行ってらっしゃい」

　お月さまに見おくられて、ゴリちゃんは夜の学校たんけんに出かけました。